
「 ドライドランク」
直訳すると、「シラフの酔っ払い」などと言うようです。
文字通り、一滴もお酒を飲んでいないのに、まるで飲んで酔っ払ってしまっているような状態になってしまうこと。だそうです。
わたしがこの言葉を初めて聞いたは、アルコール依存症専門病棟に入院していた時に受けた講義でと、入院仲間たちとの会話の時でした。
いくら講義で教えられても、入院仲間たちがその話で盛り上がろうとも、その時は全く意味がわかりませんでした。
お酒を飲んでいないのに酔っ払っているかのような状態になる。って、どういうこと?
ドライドランクと聞いて、そして、お酒飲んでないのに酔っ払う、と聞いて、すぐに理解できる人はそうそういませんよね。
そこで、わたしなりに後になって少し勉強したことを、できるだけわかりやすく書いてみたいと思います。
後から気づいたのですが、実はわたしもしっかり体験していたみたいなんです。
「ドライドランク」・「シラフの酔っ払い」って何なの?
目次
①ドライドランクっていつなるの?
②ドライドランクってどうなるの?
③ドライドランクの危うさ
④わたしが体験したドライドランク
⑤再飲酒に落ちないために
①ドライドランクっていつなるの?
アルコール依存症専門病棟での講義でも、入院の患者仲間たちの話でも、
ドライドランクが起こるのは、どうやら、人によって時期はさまざまだそうですが、断酒を始めてしばらく期間が経ってから症状がでるらしいです。(もちろん、出ない人もいます)
お酒をやめてすぐに出る人もいるし、かなり時間が経ってから、いきなり出てくる人もいるらしいのです。
神出鬼没。まさに「アルコール・テロ」とでも言っちゃいたいくらいに恐ろしい。
わたしが、実際にドライドランクの体験談を聞いたのは、アルコール依存症専門病棟での入院仲間から聞いた話と、そこで行われたAAのミーティングで、参加者の人からが聞いた話しだけですが、その時聞いた話も全くチンプンカンプンでした。
あ、「ドライドランク」という言葉は、元々AAで使われていた言葉だそうです。AAのミーティングで教えてもらいました。
入院していた時の患者仲間の話では、残念ながら長期間断酒を継続できた人が1人もいませんでした。わたしが直接聞いた人のほとんどが、我慢してお酒を飲まないでいられたのは平均一週間くらい。その間に肉体的な症状、一見、離脱症状のような状態が現れたり、精神的に不安定になってきたりしたそうです。
AAでのミーティングで聞いた話しでは、もっと幅広く、断酒を初めてから一週間くらいで来た人、半年くらいで来た人、もっと遅くて、2・3年経って、断酒にもすっかり慣れてきた頃。忘れた頃にやって来た。という人もいました。
どういったメカニズムでなってしまうのか、は、コレ!といったモノはよく分かっていないようです。
わたしが、依存性病棟での講義で教わったのは、
アルコールに依存してしまうと、断酒してお酒を飲まない期間がある程度あったとしても、脳がアルコールを飲んでいた時の状態を記憶しているので、ふとした時に、酔っ払っていた時の身体的な症状や精神的な症状が現れることがある。というものでした。
後になって本などで調べたところでも、やはり脳の記憶にカギがあるようです。
脳かぁ・・。
②ドライドランクってどうなるの?
ドライドランクの症状として、漠然と「シラフでもお酒を飲んだような状態になる」と言われてもよく分かりませんよね。
わたしも初めて聞いた時は、???でした。
そこで、これまでいくつか直接聞いた話と、後になって本などで勉強したことと、入院していたアルコール依存症専門病棟に再飲酒の後しばらく通った際にそこの医師から教えてもらったコトをわたしなりに咀嚼して、理解できたことだけ書かせてもらいます
断酒を始めると、最初の1〜2週間はそれまで飲んできたお酒の離脱状態に苦しめられることがあるのは、割とよく知られた話しですが、
ドライドランクは、その離脱状態が収まってしばらく経った後、お酒を飲んでいた頃によく見られた症状。
これも、お酒を飲んで酔っ払った状態が人さまざまなように、まさに人さまざま。その人がお酒を飲んでいた時にやっていた酔っ払いザマが飲んでなくても現れるという、なんとも摩訶不思議な現象が起こることなんです。
例えば、過度に不安定なイライラ。他人に対する攻撃的な言動が著しくなる人もいれば、絶望感に苛まれる人。
あるいは、やたらと気が大きくなって、「お酒なんか、いつでも簡単にやめられる!」と自信過剰な万能感に浸ってみたり、逆に、「これからお酒が飲めなくなる自分はなんて可哀想なんだ。」などと過度な自己憐憫に陥ってしまう人もいるそうです。
ホント、酔っ払いを見ているようですよね。
中には、お酒を飲むと暴れたり、誰かれ構わずケンカをふっかけて暴言を吐いたりしていた人が、
一滴もお酒を飲んでいないのに、ドライドランクのせいで、同じように暴れ出したり、大ゲンカをしたりなどということもあるというから、周りの家族などからすると、隠れて飲酒をしていたのでは?と不安に思うこともあるようです。
その他、断酒を続けていてしばらく経ったころに突然、手の震えなどの離脱状態のような症状が現れる人もいるそうですから、脳の記憶というものは、なんとも複雑で難しいものなんですね。
③ドライドランクの危うさ
なんとも不可解で摩訶不思議なドライドランクですが、
コレ、とても危ないんですよ。
ドライドランクから再飲酒に落ちちゃう人、とても多いんです。
アルコール依存症専門病棟でドライドランクのことを聞いた患者仲間たちも、軒並みドライドランクから再飲酒に陥り、そこからアルコール依存症に逆戻りした人ばかりでした。
精神的に不安定になりがちで、その結果、過度にイライラして人に攻撃的になってしまう人は、ホッと一息つきたいがために、お酒に手が延びてしまいます。
絶望感や自己憐憫に陥る人は、お酒の力を借りて、その耐えがたい虚しさから逃げ出したいと思うようになります。
「自分はもう、お酒のコントロールができるようになっている!」と自信過剰で気が大きくなった人は、試しに飲んでみようと思います。
ドライドランクで擬似飲酒に陥ってしまった人は、その人の飲酒時の酔っ払った状態になってしまい、かなり気をつけていないと、結局は再飲酒に走ってしまうことになりがちなのです。
ドライドランクで離脱状態のような症状が出ると、その症状を抑えたいがために、それまで飲まずに我慢していたお酒に再び手を出してしまうこともよくあります。
アルコール依存症の治療のために断酒を始め、しばらくしてお酒の無い生活にも慣れてきた矢先、
お酒を飲んでいないのに酔っ払った時のような状態になって、それが原因で再飲酒をしてしまう、というなかなか理解に苦しむこの現象。
わたしもどのような状態になることを指しているのかはずっと理解ができずにいたのですが、
自分が再飲酒をした背景をよく思い出してみると、あの時の状態がまさにドライドランクだったのだ。とハッとした思いがあります。
そのことを少し書いてみたいと思います。
④わたしが体験したドライドランク
わたしは以前はかなりの大酒飲みでして、お酒と免疫の異常との相互作用による肝臓病による吐血をやらかしまして、その際アルコール依存症との診断を受け、アルコール依存症の専門病棟に入院した。という過去があります。
そこで3ヶ月間、アルコールに関する知識を得るための学習と、アルコールを必要としない生活を送っていくための訓練などを行いました。
退院して1ヶ月、情け無いことに、わたしは再飲酒を始めてしまったのでした。
約1年間、家族にも友人たちにも、誰にも言えずに、隠れてお酒を飲んでいたんです。
この話は、こちらのブログに詳しく書いていますので、よろしかったら読んで下さい!
さて、その再飲酒のきっかけ、というのが、後になってアルコール関係の外来の際に専門の医師に質問したこととか、自分なりに体験談などをまとめた本などで勉強したことなどで分かったのですが、明らかにドライドランクの症状に当てはまるのです。驚きました。
わたしが再飲酒したきっかけというのは、まさしく、独りよがりの自信過剰。
アルコール依存症の専門でしっかり勉強したし、3ヶ月間お酒から離れていても全然平気でいられるし、今は離脱症状なんかも出ていないし、すっかり普段の生活に戻れているし・・・。
などという独りよがりの理由をつけて、
3ヶ月間の入院期間と退院してからの1ヶ月間、お酒を飲まないでいても全然平気だったし、今、ビール1本くらい飲んだって、今ならちゃん飲酒をコントロールすることができるんじゃないかい?
などと自分を過大評価して自信過剰になった結果、「わたしはもう大丈夫!」ということの証明のために、自分を試してみるという理由をつけて。
結局、飲んじゃったんです。ビール500ml。
その後はご想像通りの転落ぶりでした。
再飲酒は約1年間続き、性懲りもなくまた吐血して救急搬送されてしまう。という笑えないオチまでついた始末です。
ここで申し上げたいのは、わたしが再飲酒をしてしまった時の気持ち。というか、理由です。
そもそもわたしが好んでお酒を飲み出したきっかけというのは、
疲れている時にお酒を飲むとカラ元気が出る。とか、普段は割と緊張しがちなのですが、お酒が入ると緊張がほぐれてくる。
などと、お酒を飲むと、お酒の力で緊張感がほぐれて、気が大きくなって、何でも出来そうな勇気が湧いてくるのが心地良かったからでした。
再飲酒をしてしまった時は、まさに、わたしがお酒の力を借りて得たかった、自信過剰、豪快さ、万能感に溢れたわたしの姿が、ムクムクと湧き上がってきた。という感覚だったと思います。
今考えてみると、そういった感覚になったのは、あの一瞬だけだったのですよ。
再飲酒を始めたきっかけというのは、我慢して我慢して飲まずに耐えていたお酒をとうとう我慢できずに飲んじゃった。
というものではなく、
ホントに一瞬だけ、多分自分なら、もう、お酒をコントロールできるようになっているような気がして、なんだか無性にそれを試してみたい。自分がお酒をコントロールできるようになったことを証明したい。と思ってしまったんですよね。
実は、これって、ドライドランクの症状の一つだったようです。
わたしの場合は、お酒を飲むことで、自分の緊張感をほぐし、疲れを取り、気分が大きくなることを望み、そのためにお酒を多飲してしまい、結果アルコール依存症になってしまったんですね。
自分で言うのも何ですが、普段のわたしは、どちらかというと慎重な方で、いろんなことを気にして、あまり冒険が出来ないタイプだと思っています。
だから、後になって(再飲酒中でしたが)、何であの時、あんなに試すようなことしたんだろう。と、後悔より先に、驚きの方が先に来ちゃいました。
いや〜、なんか不思議でした。だって、シラフでは、あんなに気が大きくなって冒険したりしないですもの。
あの一瞬までは、アルコール依存症の勉強も真面目にしましたし、ガチガチに「断酒しかない!」と腹を括っていましたから。
それが、あの一瞬!
まさしく、お酒飲んで酔っ払った時の気の大きさと自信過剰ぶりが出た!という感じでしたね。
ドライドランクといえば、お酒飲んだ時みたいに暴れたり、遅れて来た離脱状態が襲ってきたり、とか、そんな風に「シラフの酔っ払い」的な分かりやすいイメージがありますが、
わたしのようなパターンもある。ということをお伝えしたいと思います。
⑤再飲酒に落ちないために
分かりやすそうでよく分からないドライドランクの症状。
とはいえ、ドライドランクの1番怖いところは、再飲酒に陥りやすい。ということだといえます。
分かりにくくて、一体いつ自分の身に現れるのかも予測できないので、なんともお手上げ状態ですが、どうすればいいのやら・・。
はい。そうですね。
ドライドランクから再飲酒に陥るのを防ぐためにには、
まず、ドライドランクというものが存在する。ということを知るというか認める。こと。
その上で、断酒が継続できて安定して来たとしても、決して気を抜かない。
ある日突然、自分に酔っ払った時の様な状態が出没してしまう。ということは起こり得る。とある意味、待ち構えておくと、ある日突然、飲んでもいないのに酔っ払った時みたくなってしまっても、慌てず騒がず、そのまま流れに任せての再飲酒にならないように上手に対処できると思います。
断酒を継続していると、ドライドランクが出て、お酒を飲んでた時みたいにイライラしたり、落ち込んだり、わたしのように自信過剰気味な状態になって、しまうことも、もしかしたら出てくることもあるかもしれません。
そんな時は「今わたしはドライドランクが始まったんだ。」と思えるくらいの気持ちの余裕が持てるようになれば、再びお酒に手を出してしまうことも防げるのではないかな?と思います。
断酒の継続を危うくするドライドランクですが、その存在を知り、そうなるかも知れないと良い意味で恐れ、そして再飲酒しないように常に用心していれば、上手くかわしていくことができると思っています。
わたしも再飲酒からの断酒がかなり継続できていますが、多分これからも、出来れば死ぬまで、ドライドランクは恐れて、用心して、もう2度と再飲酒しないですむように頑張ろう。と思います。
敵を知って落ち着け。という姿勢でいれば、ドライドランクにも落ち着いて対処できる。と思っています。
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