断酒を始めて最初の一週間は、特に、アルコールの誘惑に襲われることが頻繁にありました。
わたしの場合、
最初にアルコール依存症と診断されたのは、
アルコール依存症の影響と、実は持病だったとその時判明した肝臓の病気の影響での食道の静脈瘤破裂による吐血での緊急入院していた時でした。
そこから、そのままアルコール専門病棟に3か月間入院しましたので、
最初入院した期間1か月と合わせて、約4か月間は、ある意味自動的にアルコールから遠ざかる生活ができたわけです。
いわば、アルコール専門病棟を退院する時点では、すでに身体の中からアルコールは完全に抜けていたわけです。
そういう点では、アルコール専門病棟での生活でも、アルコールが飲めない。ということのキツさや寂しさ、というものとは無縁でいることができて、とても冷静にアルコール専門病棟での講義やカリキュラムなどの生活を送ることができたと思います。
ですので、退院したすぐは、ナメてたんですよね。
アルコール依存症の本当の怖さを。
「自分はもう、アルコールも身体から抜けているし、4か月間、アルコール無しでもなんともなかったし、まぁ、大丈夫っしよ!」
っていう感じでした。
退院してから、1、2週間くらいのことは、今、特にこれといった記憶がない。
ということは、大したアルコールへの欲求もなかったのだと思います。
ところがです。三週間を過ぎた頃から、コンビニに寄っても、スーパーに行っても、アルコールコーナーが気になって仕方がないようになってきました。
その時思ったのは、
「ホントにわたしは、アルコール依存症なのだろうか?ただ、飲み過ぎて、肝臓の病気の方の影響で静脈瘤が出来て破裂しただけで、アルコール依存症で言われるようなコントロールができない状態(病気)などでは無いのじゃないか?」
という思いでした。
そうなると、ムクムクと、本当に自分がアルコール依存症なのか、試してみたい!という思いに支配されてしまって、
結局、1か月後、再飲酒を始めてしまいました。
それを1年ほど続け、また吐血。今度はアルコール専門病棟には行きませんでしたが、1か月ほどの入院生活を送りました。
ですので、わたしの本格的な断酒生活。というのは、今から7年前、二度目の吐血入院を終えて帰宅してからだ。と思っています。
さて、そんなこんなで始まったわたしの断酒生活は、特に最初の1〜2週間がキツかったですね。
この時も、約1か月間、アルコールは抜いていたので、恐ろしい離脱症状には襲われませんでしたので、その点では昨日までアルコールを摂取していた人の断酒経験とはかなり違っている。と思います。
身体の方は、アルコールが入らなくてもなんともなく、逆にかえって調子が良いくらいでした。
しかし、頭の方は・・・
そこで思い出したのが、アルコール専門病棟でのカリキュラムの一環で、
以前、そのアルコール専門病棟に入院していて、
今も断酒を継続している方からの体験談やアドバイスを受ける授業。というものを受けた際、
講師として話をして下さった、アルコール依存症の克服のために断酒を継続していて、大学で心理学の講師をしていらっしゃる方の講義のことです。
その方の講義はとてもユニーク且つわかりやすく、わたしにはスゥーッと頭に入っていきました。
その方の講義の内容を、必死で書き留めた当時のノートと、わたしの記憶を手繰りながら、
わたしは、断酒期間で最も危険だといわれる1〜2週間をなんとか乗り切り、
その後も何度か危ない場面にも見舞われながらも、7年間の断酒生活を継続していられます。
そのアドバイスの内容は、聞いた当時はヘエ〜ッという感じでした。
でも、わたしはそのアドバイスに頼って、なんとかキツかった断酒初期の期間を乗り切り、落ち着いてきた今も、たまには思い出したように繰り返して行っています。
断酒のキツイ期間を過ごされている方や、これから断酒を始めようと決意している方々に、少しでも役に立てば、と思ってご紹介したいと思います。
目次
①記憶を味方につけよう
②アルコール問題に当てはめてみよう
③自分を試すことはやめよう
①記憶を味方につけよう
その方のお名前は、残念ながら記憶していません。
地元の大学で、心理学の講師をされている方でした。
わたしが記憶しているところでは、その方も数年前からアルコール依存症を患っていて、わたしと同じアルコール専門病棟に入院されていたそうです。
たった一日だけの、それも1時間ほどの講義でしたので、あまり詳しい自己紹介などはなかったと思います。
それでもその講義のことが記憶にしっかりと残っているのは、その内容にとても関心が持てたからでしょう。
その当時使用していたノートには、かなり書き殴った感じではありますが、しっかり書き取っていました。
その講義の内容でわたしが特にガツンときたのが、
「記憶を味方につけましょう」というものでした。
どうやら人間の記憶。というのは、繰り返し、頭の中で経験した快楽や苦痛といった刺激が深く刻まれて残っていくものだそうです。
例えば、快楽の刺激というと、
・親の手伝いをすると、とても褒められて嬉か
った。
・キライな人参を食べると、親が喜んでくれた。
・勉強を教えてあげると、友達が喜んでくれた。
・掃除を率先してすると、先生が喜んでくれた。
などなど、
人に喜んでもらったりして、嬉しかった!という経験を、何度も何度も頭の中で繰り返し、繰り返し、思い返していくと、それが快楽となって、その快楽をさらに味わいたくなって、似たような行動を取りたくなってくる。
反対に、苦痛の記憶。というのもとても大事なようで、
昔味わった、苦痛の記憶を避けるためには、その苦痛の記憶を、何度も何度も、繰り返し、繰り返し、思い返すことで、「こんな思いは二度としたくない。」という思いが強くなって、似たようなを避けるようになる。
苦痛の刺激を例えると、
・ウソをついたのがバレて、親に怒られた
・勉強をしないで、先生にコッテリ怒られた
・好きなものを食べすぎ、お腹を壊して苦しんだ
・よく調べないで出かけて、道に迷って
とても怖かった。
という例を挙げておられました。
そこで、「記憶を味方につける」です。
快楽の記憶と苦痛の記憶を上手に操って、自分の感情と行動をコントロールしていくことができるのだそうです。
なんか、
難しいですよねー!
でも、これを実践するのは、コツと多少の忍耐が有れば大丈夫!
まず、快楽の記憶を自分の感情と行動に結びつける方法から。
自分がこれまで「嬉しかった」「気持ちよかった」「誇らしくなった」などの正の記憶を、
ノートでもなんでも。記録できるものをどんどん羅列して書いていきます。
そして、何か反対の感情。負の感情が湧いてきた時に、その正の記憶を記録したものを、繰り返し、繰り返し、読むなり書くなりして、何度も頭に叩き込んで、負の感情が消えて無くなるまで、
頭の中が快楽の記憶で溢れるくらいにいっぱいにする訓練をしていく。
というものです。
そうすることで、自然と負の感情に落ち込むことなく、
コントロールできるようなるそうです。
苦痛の記憶を自分の感情というに結びつけていく方法も、
同じように、繰り返し頭に叩き込む。という快楽の記憶と同じです。
繰り返し、繰り返し、何度も負の感情に引き込まれないように、苦痛の記憶を頭の中で追体験しながら、自然に感情と行動をコントロールできるようにするのです。
②アルコール問題に当てはめてみよう
この、快楽の記憶と苦痛の記憶で感情と行動をコントロールする方法を、
アルコール依存症者が断酒に躓きそうになった時に使うことで、
傾きかけた飲酒欲求にブレーキをかけることが出来るとのことです。
(ちなみに、その心理学の講師の方も、この方法で何度となく飲酒欲求をかわしてきたそうです。)
わたしも、自分の断酒に黄信号が灯つた時は、
早速、この方法をやる事にしています。
わたしの場合、
まず、自分がアルコールを飲まないことで喜んでもらったこと、褒めてもらったこと、誰かが笑顔になったこと、
例えば、
・お酒を飲むのを諦めて家にいただけで、
家族が喜んでくれた。
・お酒を飲まずに車で迎えに行くと、
娘にめちゃくちゃ感謝された。
・断酒3か月継続で、母親に褒めてもらえた。
などなどなど。
ホント、小さな嬉しかったり幸せだったりなのですが、何度も繰り返し思い返したり、記録していたものを読み返したりしていると、
飲みたい欲求がどうしようもなくなった時でも、なんだかスゥーッと気持ちが落ち着いてきます。
そしてしばらくすると、
また記憶の中での快楽体験と同じように、心地よく、幸せな気持ちを得たいな。と思うようになりますから、不思議です。
苦痛の記憶も効きますよ!
・前の日、飲み過ぎて二日酔いで
めちゃくちゃキツかったこと。
・子どもとの出かける約束があったのに、
呑んでしまつて、酔い潰れて行けなかった。
・友達との約束があったのに、呑んだくれて
行かなくて、すごく気まずくなってしまった。
・もう、飲まない。と宣言したのに
呑んでしまって、母親に泣かれた。
などなどなどなど。
常に、自分が苦痛に思ったときの記憶を、繰り返し、繰り返し、記憶の中で手繰るうちに、
アルコールが飲みたい。と思っても、
自動的に、自分がアルコールによって辛かったり、情けなかったりした思い出が頭に浮かんできて、飲みたいスイッチが消えていき、冷静に考えることができるようになってくるのが、不思議でした。
これらの、快楽と苦痛の記憶を味方につけて、
わたしはなんとか、断酒初期の一番危ない時期を乗り切ることができました。
この手法は、アルコールの問題だけではなく、
いろいろ場面で使えますので、
要チェックですよ!
③自分を試すことはやめよう
アルコール専門病棟で講義を受けた、
記憶の話をしてくださった、心理学の講師の方が、最後に話してくださった話の中に出てきた言葉で、
その時とても記憶に残った話を最後に簡単にご紹介したいと思います。
人が自分を試してみたくなる。という感情は、
今、本当は自分が欲しているものが、なにかのブレーキがかかっていて、それをやらない方がいいと自分でも分かっているのに、
どうしてもやりたくなってしまって、どうしようもなくなった時に、
脳がつじつまを合わせるために持ち出してくる感情なんだそうです。
わたしが再飲酒を始めてしまった際、
「もう、アルコールをコントロールできるようになっているのか、試してみよう。」
と思って、結局、再飲酒の沼に落ち込んでしまった。という経験も、
まさしく、アルコールを摂取したくてたまらないのに、自分がアルコール依存症と診断されたことで、
間違いなく、一度飲み出すと一度じゃ済まなくなるということも頭ではちゃんと分かっているはずなのに。
本当はもうアルコールは飲んではいけない。
ということが正解なのはよくわかっているはずなのに、
どうしたことか、頭の隅っこでは、「それでも、やっぱり呑みたい!」
という思いが消えてはくれません。
そこで、「もう、アルコールにコントロールが効くようになったか試してみる」という行動に置き換えることによって、
なんとか脳のつじつまを合わせて、自分の行動を正当化しようとしていたんです。
「試してみよう」という言葉を発する時、
脳が自分でつじつまを合わせているだけで、
本当は、やってはいけないことである。と冷静に考えればすぐわかるはずなんです。
失敗体験も笑って済ませられるような、他愛のないことならば、代わり映えしない日常のアクセントとしては良いと思いますが、
どうしてもしくじってはいけない、デリケートな問題では、試すことはやめておいた方が絶対に良い。ということです。
再飲酒の罠にハマってしまったわたしがいうのだから
間違いないですよ!
気をつけましょうね。

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